あの椅子に座って、あなたはずっと本を読んでいました。
せっかく買った補聴器も、耳元でうるさいからと怒って棚にしまい、誰にもじゃまされずに本を読んでいました。
本は決まって青の表紙。
何回もめくったからでしょう。あの青の表紙は、折り曲げられたところを白くして、今では青と白のストライプになっています。
たまにあの椅子に座ってあの本を開くと、あなたの指の後が残っていたりします。その後を見ていると、急に開いていたページに隙間無くあなたの指の後が、黒く、はい回るようにして現れるのです。私は息を飲んで閉じます。これは、単なるいたずらですか。それともあの時の仕返しですか。
あの後、小さくなってしまったあなたを連れて、私は父の運転する車の窓から遠くを見ていました。あの日の空は、薄い、赤ちゃんのコットンのような雲が、ぽん、ぽんと浮かんでいるだけで、その上は真っ青な空があるんだな、そう分かるような空でした。車の振動に体をまかせながら、いつもより肩に力の入っていない母は言いました。
「あの本も、一緒に行かせてあげればよかったね。」
小さな小さな、蚊の鳴くような声でした。
ねえ、気が利かない私で、ごめんね。




